白い部屋の片隅で

主に寝て食っています

江戸時代が面白すぎるのだ!

 今年は紙の本ではなく、アプリで電子データの漫画を読むことを覚えた私だが、最近よしながふみ氏の『大奥』を読んだ。アプリ上であるが、17巻分を1週間ほどで読み終えてしまった。吹き出しの中の文章量が多い作品なのに、どんどんページをスクロールしてしまう。おもしれえ~~。

よしながふみ|MELODY[メロディ]|白泉社

 『大奥』というと、かつてフジテレビで連続ドラマがやっており、時代を席巻したから世によく知られているだろう。簡単に言うと、江戸城内に設けられた将軍のためのハーレムである。将軍という一人の男のために、何百という女性たちが仕える特殊な場所のことを「大奥」と呼んだ。その場所を舞台にしたドラマは、なんとなく覚えている。贅を尽くした着物や、たくさんの規則、愛憎渦巻くドロドロとした世界観などなど。幼いながら魅力的なテーマだと思い、印象深かったが、そのテレビドラマが流行した数年後、毛色の異なる「大奥」という映画が製作された。昨年私はこの映画を観たのだが、ちょっとびっくりした。なんと、将軍が女性だったからだ。当然、女性一人のための大奥ならば、そこで働くのは美男子たちになり、あの大奥の男女逆転版となる。美男子たちの競演が眼福で、良い映画であった。

大奥 - 作品 - Yahoo!映画

 しかし、「オーシャンズ11」の女性版が「オーシャンズ8」として製作され、「ゴーストバスターズ」も女性版として最近作られたし、ここ数年の時流に配慮して作られたものなのか?と思ったが、なんとこの作品には原作の漫画があるという。そのようにしてこの漫画の存在を知り、ずっと気になっていたが、先日アプリ上で読み放題のキャンペーンをしており、ハマるに至った。

 この漫画は八代将軍吉宗の時代から始まる(映画は吉宗の時代を切り取って映像化されていた)。そこから、大奥に残された記録から、男女逆転状態になった三代将軍家光の時代にさかのぼり、七代までの大奥の歴史が振り返られる。そして吉宗の時代に戻り、時はどんどん進んでいく。現在は十四代将軍の時代まで描かれており、このまま描いていくと江戸幕府の時代を網羅することになる。

 ん?なんか『大奥』同様に、江戸時代の歴史を辿る漫画にハマったことあったよな?もわもわと、私の脳裏にまるっこい体で各地を走り回る人物たちの絵が思い浮かんできた。みなもと太郎氏の『風雲児たち』である。高校生のとき、日本史の先生から勧められた漫画だった(世界史はもちろん『ベルサイユのばら』である)。関ヶ原の戦いから始まるこの漫画は、丁寧に江戸時代を時系列で追って描いていて、この時代に奔走した人たちの志や努力、生き様がまぶしくてとても面白かった。たくさんのエピソードがあるが、印象深いのが『解体新書』編だろう。今のように辞書があるわけでもない時代に、異国の医学を学ぶために一から異国の書を読み進めた男たちの物語で、保守的な幕府の内にあって先進的な考えを持った田沼意次の姿がかっこよくて惚れた。懐かしい。

 この『大奥』にも田沼は出てきて、その政治を執り行う姿勢はすがすがしく、世間とのズレから生じる失脚劇も切ないものであった。『風雲児たち』と大きく違うのは、この田沼が女性であるということ。田沼だけではなく、平賀源内も、吉宗も、みな女性として描かれている。鎖国、新技術導入への壁、安定を継続させるための政策、世間の風当たり…。これらの要素に男性が表舞台に出ることができないという事情が加わり、より複雑さを増した江戸時代の動乱が、生々しく切実に描かれている。また、男性が表舞台に出られないという事情から「男は政なぞに口を出すでない」という、現実から考えたらなんとも皮肉な台詞も登場する。男女逆転にしたからこそ、現実の女性の境遇が浮き彫りになる、なんて効果もあるように思う。

 単純に絵が美しく眼福であった。一気に読んでしまったが、じっくり読み込むこともできる、濃い内容の漫画だ。また完結まで追いかけて、最初から読み返してみたい。